さっくりわかる教育トレンド「ウェルビーイング」
記事更新日 2024.09.18

さっくりわかる教育トレンド「ウェルビーイング」

今回は「ウェルビーイング」について解説していきます。近年、耳にする機会が増えたものの、意味は何となくしか知らない方も多いかもしれません。この機会に理解を深めていただければ幸いです。

ウェルビーイングの歴史

社会的な議論の対象としての「ウェルビーイング」という言葉は、1925年にカナダの団体が『健康状態』を『たんなる病からの自由だけではない、ウェルビーイングな状態』と定義したことを嚆矢とする説が有力です。その後、WHO(世界保健機構)が1946年のWHO憲章にウェルビーイングの語を用いたことにより、世界的に認知されることになりました。
そして近年、ウェルビーイングが特に注目を集めている背景には、OECD(経済協力開発機構)の「Learning Compass 2030(学びの羅針盤2030)」に登場し、「私たちが望む未来(Future We Want)」であり、共通の「目的地」として位置付けられていることが大きく影響しています。なお日本では、令和5年6月の「教育振興基本計画」の中で、「身体的・精神的・社会的に良い状態にあることをいい、短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義など将来にわたる持続的な幸福を含むものである。また、個人のみならず、個人を取り巻く場や地域、社会が持続的に良い状態であることを含む包括的な概念である。」と定義されています。このように、「ウェルビーイング」の語は、時代の変遷や使用する団体により意味の射程を変えながら、今日に至っています。

ウェルビーイングとは

さて、まずは歴史的な経緯を辿りました。ウェルビーイングをごく簡単に言えば、個人や社会の『持続的な幸福』ということになりますが、もう少しだけ掘り下げておきましょう。
まずもって『幸福』は一意的ではなく、主観に大きく依ります。しかし同時に、ある程度は客観的に測ることも可能です。例えば国や地域の平均寿命、生涯賃金、失業率等は観測可能であり、それらが一定水準を下回る状態では『幸福』からは遠い状態と判断できるでしょう。生命活動の存続こそが第一義的な目的となることが容易に予想できるからです。一方で、経済先進諸国においてはもはや飢えといった生命を脅かす貧しさと直面することはほとんどありません。しかし、そこに所属する人々が『幸福』にあるかと言えばその限りではなく、精神的にはむしろ疲弊していることさえあります。先進国の多くで『刹那的な幸福』を手にする手段としてのドラッグが社会的な問題になっていることも、その証左の一つでしょう。
ここまでを包括すると、ウェルビーイングとは「個人や社会が物心両面において過去から現在にわたって幸福が継続し、かつその幸福を今後も享受できると無根拠に予期している状態」程度に理解しておき、議論の主題や状況に合わせて焦点を変えるのが、現実的に運用しやすい概念理解と言えそうです。

ウェルビーイングと教育

現在、教育の世界でもウェルビーイングは大きな注目を集めています。かつて教育は立身出世のツールと見なされたこともありますが、もはや難関校や高偏差値の先に必ずしも幸福が待ってはいないことに多くの人が気づいています。そのため、世界的にも「教育の目的はウェルビーイングの実現にある」と考えられています。
ここで、ウェルビーイングを教育の文脈で語る際に注意しなくてはいけないことに、文化圏による価値観の違いが挙げられます。ウェルビーイングという概念は、元々欧米文化に根差したものです。そのまま日本における教育に当てはめることは適当ではありません。欧米では、人生の幸福は自尊感情や自己効力感が高いことによってもたらされるという考え方が根強くあります。そのため、幸せは個人がつかみ取るものという獲得的要素を重視する考えが支配的です。一方、日本において幸せは多くの場合、協調的要素すなわち利他や協働あるいは社会貢献など、人とのつながり・関係性と強固に結びついています。風土が異なる以上、『持続的な幸福』を実現するために必要な教育も異なるのは当然となります。今後、私たちは獲得的要素と協調的要素を併せ持つ、日本社会に根差したウェルビーイングの実現を目指すことが求められます。

ウェルビーイングを実現する学校になるために

教育の目的をウェルビーイングの実現とした際、学校には生徒の学力のみならず、自尊感情や自己効力感、利他性、協働性、社会貢献意識などの非認知的な資質・能力を高めるという役割が期待されます。しかし、それは特別な教育プログラムを用意するということを意味しません。まずもって子どもたちが学ぶ環境の整備が大切です。心身の健康はもちろんのこと、学校と家庭・地域がつながり、安心安全な環境が確保され、十分なサポートが受けられる教育環境を実現しなければなりません。つまり、学校そのものをウェルビーイングが実現された環境にするということです。
そのためには、児童・生徒だけでなく教職員全員がウェルビーイングの実現を目標として共通認識を持つ必要があります。そして、その達成度を測定する指標を作成して定期的に振り返り評価するエビデンスベースのマネジメントが求められます。その上で、具体的な施策を計画・実行し、目標に近づく努力をしなければなりません。
このようにして実現された子どもたち一人ひとりのウェルビーイングが、家庭や地域、社会に広がっていき、その広がりが多様な個人を支え、将来にわたって世代を超えて循環していくというのが、今後の学校の理想の姿かもしれません。

まとめ

本日は「ウェルビーイング」という概念について解説しました。間違いなく現代において重要であり、かつ教育の場に飛び込もうという皆さまが必ず向き合うことになるテーマの一つです。お役に立てば幸いです。

(作成:お仕事ジャーナル編集部W)

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