さっくりわかる教育トレンド「学習方略」
記事更新日 2024.06.14

さっくりわかる教育トレンド「学習方略」

今回は「学習方略」について解説したいと思います。あまり聞き慣れない言葉に感じられる方もいるかもしれません。実は、誰もが経験したことがある素朴な行動を指す言葉ですので、ぜひ気軽にお読みいただければ幸いです。また、加えて教育現場における学習方略の位置づけについても触れたいと思います。

学習方略とは

「英文を暗記するために、何度も口に出して読んでみよう」「中国の古代思想家を理解するために、一覧にして比較してみよう」。このような工夫は、誰しもが学生時代に経験しているのではないでしょうか。教育心理学において学習活動の進め方や工夫は「学習方略」と呼ばれています。意識的にせよ、無意識にせよ、私たちは何かを理解したり記憶したりするため、様々な方法を採っています。

先ほど挙げたものはその一例です。記憶に関しては「何度も書いたり、声に出して読んだりする」だけでなく、「一度記憶したことを思い出せるか試してみる」といった工夫をしたことがある方も少なくないかもしれません。また、類似した概念や複雑な情報を理解するためには、先ほどのように「グループ化して表を作成する」ことも有効ですが、「複雑な事象を構造化して図に落とし込んでみる」といった工夫も有効な手段です。これらの工夫は、下記のような種別で学習方略として整理されています。

「何度も書いたり、声に出して読んだりする」→反復方略
「一度記憶したことを思い出せるか試してみる」→リハーサル方略
「グループ化して表を作成する、複雑な事象を構造化して図に落とし込んでみる」→体制化方略

 

学習者が学習方略を自ら工夫することの意義

学習方略は学習活動において重要な位置を占めます。限られた学習方略しか有しない状態では、効果的な学習には繋がりません。もちろん経験により獲得していく側面もありますが、同時に知識として有している学習方略の数を意識的に増やすことも大切です。学習活動において使える「武器」を獲得するためにも、学習方略とその具体的な実践方法まで含めて伝えていくということが、指導者の役割の一つでしょう。

ただし、ここで重要なことは、「たくさんの学習方略を知っていること」そのものではありません。あるいは、「指導者が生徒に正しい学習方略を与える」ことでもありません。「指導者が方略を示したうえで生徒自身の選択を促し、生徒が自ら活用し、活動をふり返り改善し、より良い方略の獲得に向かうこと」です。
誰しもが自分自身の成功体験を基に指導してしまいがちですし、疑うことなく自身の経験した学習方略を実践させてしまうことは少なくありません。例えば、英単語や漢字テストで「10回書かせる」というような課題を一律に課すことなどがその典型でしょう。しかし、人の認知的特性は様々であり、生徒によっては「繰り返し書く」という方略が適切ではないケースもあり得ます。

また、取り組みの効果そのものよりも、方略を工夫するという過程自体も「学習」であり、重要であるということを理解する必要があります。指導者から方略を強要することによって、「学習は自分で工夫して進めるもの」という最も重要な価値観の形成を阻害することに繋がりかねません。

上記のような学習方略の押し付けの結果、学習の動機づけを得られない事態も考えられます。「学習は先生や親から指示されたものを、とにかく時間や量をこなせば良い」と考えている限り、得られる学習効果は限定的です。自ら学び、自身を変革し続ける姿勢の欠如は、今後の社会を生き抜く上でも大きな障害になります。「学習は自分で工夫をしながら進めることで、効果や成果を上げることができる」という価値観を醸成するためにも、学習方略を生徒自身が工夫して学習を進められるような教育的な工夫が大切になります。

 

高い効果が期待できる学習方略

ここまで、学習方略そのものよりも学習方略を含めた課程の重要性に触れました。一方で教育心理学の研究が進んでいる昨今では、どのような学習方略が有効かも明らかになってきています。代表的なものを3つ紹介したいと思います。

精緻化方略

学んだこと、獲得した知識や、学んだ概念同士をつなげたり、日常生活の事象と関連づけたりする方略
例)学んだことを自分の言葉で詳しく説明する

検索練習

インプットした記憶を取り出して再度活用する方略
例)単語カードなどを活用して記憶したことを思い出す、教科書やノートを見ずに問題を解いてみる

分散学習

詰め込みではなく、一定期間にわたって分散させて学習する方略
例)試験の数週間前から毎日少しずつ時間をとって学習したり、あえて少し時間をおいてから復習したりする
※詰め込み学習による知識定着は短期間に留まるのに対し、分散学習のほうが定着期間は長い

 

まとめ

生徒が主体的な学びへと進むステップを、学習方略を中心に整理すると、次の通りとなります。
①どのような学習方略があるのかということを知ること
②自分なりに工夫して学習方略を活用すること
③学習をふり返り学習方略の活用を改善し続けること
本稿が皆さまの一助となれば幸いです。

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