さっくりわかる教育トレンド「学習観」
記事更新日 2024.06.28

さっくりわかる教育トレンド「学習観」

突然ですが、皆さんにとって「学ぶこと」とはどのようなものでしょうか。あるいは、何かを学ぶ上で大切にしていることは何でしょうか。今回は、この「学びに対する考え方、価値観、信念」を意味する「学習観」について解説します。

学習観とは

学習観とは上記に述べた通り、端的には個人の学習に対する考え方です。では、なぜ学習観が重要なのでしょうか。それは学習観が学習活動の質を左右し、結果として得られる学習成果にも影響が及ぼすことになるからです。

学習活動は、ある意味で個人の学習に対する考え方(学習観)と、具体的に取る方法(学習方略)の総和と捉えることもできます。むろん、両者の間には密接な関係があります。学習者が持っている学習観によって採用される学習方略が規定され、逆に採用した学習方略と得られた体験によって学習観が構成されます。そのため、どのような学習観を持っているのかにより学習の効果に大きな影響があります。そして学習の効果を実感できるか否かは、学習を継続する重要な動機づけのひとつです。

 

学習観と主体性

前提として、本稿では変化がかつてないほど大きくかつ速く、一意的な正解を求めることが困難な社会を生き抜くためにも、主体的に学びに取り組むことで自らをアップデートさせ続ける態度が重要であるという立場から発信しています。詳細は、自己調整学習の記事(リンク)をご参照ください。

学習者の有している学習観によっても、主体的な学習活動を駆動するか、あるいは逆に阻害するかに影響があることが分かっています。では、どのような学習観は主体的な学びと親和性が高く、あるいは逆に低いのでしょうか。ここでは学習観を、大きく主体的な学習に繋がりやすいか否かの2種で大別しました。

<主体的な学習に繋がりやすい学習観>
意味理解志向:学習している事柄の意味を理解することが大切だ
思考過程重視志向:課題に対して過程や考え方が大切だ
方略思考:学習を上手に進めるためにはどんな方法を選ぶかが大切だ
失敗活用志向:学習の過程での失敗から学ぶことがある

<主体的学習に繋がりやすい学習観>
暗記志向:学習においてはとにかく暗記することが大切だ
結果志向:学習においてはとにかく答えが合っていることが大切だ
物量志向:学習においてはとにかく量をこなすことが大切だ
環境志向:学習においてはどんな環境で学習を行うかが大切だ

通常は、対立する学習観も一人の学習者において一方だけが内在するものではありません。実際には濃淡で理解すべき事象であり、個人の中に様々な学習観が同居するものと考えられます。もちろん、教科によって異なる学習観を持つということもあり得るでしょう。
また、必ずしも「主体的学習につながりにくい学習観」=「悪いこと」というわけではありません。学習内容によっては「とにかく暗記すること」が必要なものがあることも事実です。いずれにせよ、大切なことは取り組む課題に対して適する学習行動を自ら考え、採用するということです。その上で、行動を支える土台としての学習観を理解しておくことは、学習活動のよい循環を生むでしょう。

 

学習観の変容

さて、ここまでお読みいただくと、適切な学習観の確立の重要性がご理解いただけたのではないかと思います。しかし、学習観とは価値観や考え方である以上、もし変える必要がある場合でもその変容は決して容易なことではありません。短期的な結果に囚われることなく、長期的な視点に立って学習者の学習観の変容を促すという働きかけが必要になります。

では、どのようなアプローチを採ることで学習観の変容が可能になるのでしょうか。先ほど申し上げたように、「学習観」と「学習方略」の両者の間には密接な関係があります。考え方そのものをいきなり変えることは難しいため、学習方略の活用という行動面における変容を先行して促進することが重要です。

行動レベルである学習方略にアプローチし、「学習活動を変える」「そのことをふり返り自らの学習活動にフィードバックする」という活動を往還していくことによって、学ぶということをどのように捉えるかという学習観を徐々に転換させていくことができます。そして当然ながら、そのためには学習方略に関する知識を持っていること、適切な学習方略を選択できることが必要になります。学習方略についてはこちら(リンク)をご覧ください。

 

まとめ

ここまで、学習活動における学習観の位置づけや、学習者の主体性との関係、あるいはその変容に必要なことについて解説しました。また本稿では詳しく述べませんでしたが、これらの実現のためには学習活動を客観的に捉えて調整する「メタ認知力」を持っているということも重要です。
複雑に絡み合う諸要素を理解し、それぞれを独立したものとして捉えるのではなく、複合的に捉え、教育活動における介入に活かしていくという視点が今後指導者には求められるでしょう。本稿が一助になれば幸いです。

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