私学のユニーク先生インタビュー「自由の森学園中学校・高等学校 松元大地先生」
記事更新日 2024.07.30

私学のユニーク先生インタビュー「自由の森学園中学校・高等学校 松元大地先生」

今回は、自由の森学園中学校・高等学校の松元大地先生をお訪ねし、現在のお仕事に至るまでの経歴やお仕事のやりがい・面白さについて、お話をうかがいました。

教師も生徒も「自由」の中で成長していく自由の森学園

――貴校の特徴や生徒さんたちについて教えてください。

松元先生 学校の名前にあるように、一人ひとりが自立した「自由」を持った、かけがえのない「個」を大切に育む教育を目指しています。例えばですが、わが校の特徴としては、点数によって能力を評価することはしません。通知表などの代わりに、教科担当が文章を一人一人に向けて書きます。校則も極力ありません。制服が無かったり、髪型が自由だったりします。
この自由な空気な中で、いろいろな考えをもつ学友たちとのびのびと過ごすことができると思います。また、先生と生徒の距離が近いというところも本校のよさです。

――授業も「自由」なんでしょうか。

松元先生 授業も教員がそれぞれの学年に応じて、自由に教えたいことを教えられます。試験までに「この範囲を教えないといけない」という風な、ノルマを意識して教えているという人はいません。けれども、自由だからこそ、教員は授業を非常に練ります。生徒からは、面白くない、全然響かないということが直球で伝えられるため先生たちはそれを受け止めて、ブラッシュアップして新しいものを準備していくのです。“なんでこういう授業をするのか”と生徒に問われたときに、“指導要領に載っているから”と答えるのは、答えにならないわけです。

 

自由の森学園で知った「数学の面白さ」

――先生も卒業生だと聞きました、今の教員生活に繋がるきっかけや印象的なご経験はありましたか?

松元先生 やはり数学を「面白い」と思えるようになったこと、そして「面白い」を継続するきっかけをくれた恩師との出会い、そしてギターとの出会いですね。私は小学生のときは典型的な優等生タイプで、勉強も「できる」小学生でした。自由の森に入学し、自由な雰囲気の中過ごしていく中で、私の中から勉強が「できる・できない」という価値観は消え、「面白い・面白くない」、「興味ある・興味ない」で判断するようになったんです。この価値観の変遷はすごく大きく、私が今授業をする際も、生徒にどのくらい面白いと思ってもらえるか、興味を持ってもらえるかというのを柱に考えています。確かに速く計算ができるようになるなども大切な要素ではありますが、柱ではありません。

 

数学、英語、理科の教員の混合グループで学園祭に出演(向かって一番左が松元先生)

――音楽の道に進まれたとうかがいました。自由の森学園卒業後はどのような進路選択をしましたか?

松元先生 大学は数学科を専攻しました。数学は好きでしたし、数学の先生から「お前くらい数学を楽しそうにやる奴はいない。得意というより楽しいと思う方が強い。自分の力を試してみたら」と口説かれました。その数学の先生に教育実習で顔を出したら恩返しになるかもという思いもあり教職は取りました。しかし、先生になる気は一切なかった。私の気持ちが向いていたのは中学時代に出会ったギターとバンドです。大学時代は楽器店主催のコンテストで入賞したり、レコード会社の人が見に来てくれたりということもあって、音楽の道を目指しました。

――卒業後は数学との関わりは切れてしまったのでしょうか?

松元先生 実は数学の参考書などを手掛けている編集プロダクションでアルバイトもしていました。中学生や高校生向けに問題を考えたり、数学を題材にした漫画のストーリー原稿を考えたりもしました。私が作る問題は解いていて楽しいはずだ! と、自分の作る問題にすごく自信がありましたね。私自身も問題を作ることがとても楽しかったです。

――二足の草鞋を履いている状態ですね。そのような生活も充実していそうですが、なぜ教員の道をえらばれたのでしょうか?

松元先生 きっかけになったのは、東日本大震災です。東京のライブハウスがのきなみ計画停電で営業停止になりました。そのとき、「自分が演奏しなくなっても生活をしていくうえで誰も困らない」と気づきました。私の音楽は、自分が演奏を見せたいという自己満足の領域を超えていなかったということを突き付けられた感じでした。
さらに、同じくらいの時期に、アルバイト先でもきっかけがありました。当時も数学の問題を作る際にあった思いは「数学に興味をもってほしい」でした。そんな思いで面白い問題を作りたいと思っている私と、数学のテクニック的な、点数を取るために学生が必要としているもの、売れるものを作るべきだというビジネス視点をもっている方々との衝突がちょくちょくありました。そんな中で「自分、相当数学を愛しているな」って思ったんですよね。

 

多くの生徒が我先にと手を挙げる授業の様子

――数学への熱い想いに改めて気づいたんですね。その後すぐに教員の道へ進まれたということでしょうか。

松元先生 そうですね。「俺のことを生徒が待っているはずだ!」と、根拠のない自信もありました(笑)。あと、やりたいことができない!と思っていたときに、恩師の先生のことも思い出したんです。僕に数学の魅力を伝えてくれた先生は「計算を速くしろ」とか、テクニック的な数学の話ではなく、数学の面白さや深さを教えてくれた。きっとあの先生なら、今僕のやりたいと思っていることを理解してくれるだろうと思ったのです。すぐに自由の森学園に電話をして、募集をしていないかと問い合わせました。実はその当時の私の年齢では専任としては採用できないかもしれないと言われたのですが、それでもいいから教えたいと伝えたことがきっかけで、今に至ります。

 

数学の授業で、明日を生きていく元気を与えたい

――音楽業界を経た先生だからこそ、目指す授業というものはありますか?

松元先生 私が授業で目指しているのは「元気を与えられる授業」です。私は「音楽」や「映画」が大好きです。なぜこんなに好きなのだろうと考えたときに「疲れた体や心に元気を与えてくれるから」だと思うんです。つまり、音楽や映画という文化は非常にかけがえのないもので、明日を生きるための活力をくれるものです。その力を数学でも湧きあがらせたい。
なぜそれが数学でできるかと言うと、数学は世界を見る一つの見方だからです。中学校や高校時代に学ぶ数式などは、必ず物理現象とリンクしています。だから、実験で見せることが可能です。現実で起きている「世界の理(ことわり)」だからです。もし数学が面白いと感じたならば、それは実は今生きている世界が面白いものだからです。
授業を通して、世界を面白いと感じることのできる自分自身の価値にも気づいてもらいたい。さらに言えば、一緒に学ぶ仲間がいるからこそ授業も成り立つものです。そういった他者の価値にも気づいてほしいというのが、私の願いです。
いろいろな生徒がいます。すごく悩み事があるかもしれないし、生きることを迷っている子もいるかもしれない。そういう子たちに数学の授業を通して、世界の面白さや自分や他人のかけがえのなさに気づいてもらい、明日を生きていく元気を与えられる授業をすることが、最大の目標です。

――ご自身で教材を作ったり、いろいろな実験も行ったりしているとうかがいました。

松元先生 授業ってライブに近いところもあると思います。面白い授業ができたときはリアルタイムで生徒からの反応が返ってきます。逆に、自分は面白いと思ったけれど、反応が鈍いというときもあります。生徒の反応をみて、この教え方だと伝わらないなと感じたら変えていく。それを繰り返していると、教科書から離れていき、自分なりに教材も作るようになりました。
実験でいうと、例えば相似の三角形の知識を使い、ナスカの地上絵を実寸大で運動場に描くということを行いました。「こういうことができるよ」と伝えるだけなのと、実際にやるのでは全然違いますからね。

 

運動場を用いて作成したナスカの地上絵

 

世の中のあらゆる事象が、授業に活かせるヒントになる

――日々どのようなスケジュールで働いていますか?

松元先生 現在時短勤務を取っています。子どもが3人いて、一番下の3歳の子どもを保育園に7時半過ぎに預けます。その後、電車(時には車)で出勤です。8時40分の出勤時間に間に合わないときがほとんどですので、朝の時短申請をしています。9時30分から授業がスタートして、15時10分まで授業があり、放課後は打ち合わせや部活動などが入ります。その後18時30分に学校が閉まるので、それまでに退勤です。もちろん子どものお迎えがあるときはもっと早く帰ります。
教職員の組合もあり、言うべきことは言う関係があります。働くスタッフとしての権利はきちんと配慮してくれる働きやすい職場だと感じています。
現在は中学校1・2年生と、高校1・3年生の数学の授業を担当しています。時間が許すなら全学年やりたいくらいです(笑)。

――これから教師になりたい人へアドバイスをお願いします。
松元先生 「視野を広く」が大切だと思います。私は数学以外のことにも常にアンテナを張るようにし、目に留まるものは斜め読み程度ではありますが、目を通すようにしています。授業に活かすことができるいろいろなヒントが世界中には散らばっているんです。「これを授業で使って話せば生徒が喜ぶな」と、考えながら世の中を見ています。指導書を熟読するだけでは気づかなかったり、得られなかったりすることがたくさんあります。これから先生になる人にぜひ意識してもらいたい部分かなと思います。

#プロフィール
松元大地(まつもと だいち)
自由の森学園中学校・高等学校卒業。大学卒業後、音楽活動と並行して、教材制作の仕事に携わる。教員に転職後は、「数学が面白い」「数学に興味をもつようになった」と思ってもらえるような、楽しめる授業を柔軟な発想をもとに日々実践する。学外でも数学の出張授業などを行い、声がかかれば全国各地に飛び回っている。
#学校INFO
自由の森学園中学校・高等学校
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ナスカの地上絵(YouTube.com)
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