私学のユニーク先生インタビュー「昌平中学・高等学校」
記事更新日 2024.09.06

私学のユニーク先生インタビュー「昌平中学・高等学校」

今回は、昌平中学・高等学校を訪問。こちらの学校は管理職の3人の先生が一般企業から教師に転職したという経緯をお持ちだという。
中学校校長の村田貴也先生、高等学校校長の加藤慎也先生、中学校・高等学校教頭の前田紘平先生に現在のお仕事に至るまでの経歴やお仕事のやりがいなどについて、お話をうかがいました。

PART1 前田紘平先生
世の中を知ることは大切だと感じ、会社員の道へ。海外を飛び回った20代

――教師に至るまでのキャリアについて伺います。大学卒業から教師になるまで、どのような仕事に就いていたのでしょうか?

前田先生 大学を卒業し、2つの会社を経験しました。1社目は大手メーカーで、2社目は外資系の商社です。メーカーでの仕事は自分の扱った製品が世の中に出て、すごくやりがいがありました。また、様々な国の方々と働くことで多様性を感じることができました。しかし、大企業ならではの難しさも感じていました。ロールモデルとなる先輩も数多くいましたが、逆に自分の業務に限界を感じることもありました。
このような思いを抱きながら、今後について少し悩みはじめていた25歳ごろに、次に働く外資系の商社とのご縁がありました。親会社がサウジアラビアにある商社で、自動車関係を中心に扱っている会社です。社員は30人ほど。人手が足りず、すぐに働いてほしいという話で、面白そうだなと思い転職しました。私が携わったのは、主に日本のトラックビジネスで、海外向けの新規事業開拓です。28歳までその会社に勤め、海外を飛び回っていました。充実した生活を送っていましたが、30歳が目前に迫り、教育の世界にチャレンジしようと決めて昌平の採用試験を受けました。

――なぜ、教育の世界にチャレンジしたいと思ったのでしょうか。

前田先生 小さな頃から「教育」は非常に興味のある領域でした。実は私は帰国子女で、アメリカで生まれ、4歳から10歳まで日本で、そして10歳から14歳までアメリカで暮らし、中3で日本に帰ってきました。日本で過ごしていくなかで、日本の授業はどこか窮屈でつまらないなと漠然と感じていましたし、どこか違和感もあった。「教育」に疑問を抱きながら成長したため、非常に「教育」に興味があり、漠然とですが教育関係の仕事をしたいなと思っていました。
しかし、いざ就職となったタイミングで、その時の埼玉県の社会科の倍率はなんと100倍。すぐに合格するのは難しいと考えました。「私は英語もできるし、海外経験もある、世の中を知ることは大切だ」と考え、会社員になってから教員になろうと決心したわけです。
そのため、教育の場は私にとっては憧れの職場で、入れなかったから遠回りをして、今がタイミングだと思い行動し、やっとたどり着いた道なのです。

たくさんの国籍の人と仕事をした私だから伝えられることがある

――企業での経験は、どのようなときに活かされていると思いますか?

前田先生 企業の経験が活かされているなと感じる瞬間のひとつめは、社会科の授業の時に、自分が経験した仕事でのエピソードを交えながら話すことで、生徒たちが非常に興味を持って聞いてくれることです。やはり、文字と写真で説明されるだけの情報と、実感を持って語れる話には明確な差があると思います。
そして、もうひとつは国際教育の中で、あらゆる文化の人と触れ合った経験を生の声として伝えることができることです。私はあらゆる国籍の人と仕事をしました。当然文化も違います。例えば、日本人は遅刻をしないことが当たり前の文化ですが、私がよく仕事で訪問していた国では2時間遅れるというのはザラにあることです。これは、どちらがいい悪いではなく、そういう文化の違いです。違いの中でどう物事をすすめていこうかなど模索した経験を基に、本当の意味での国際理解を生徒に伝えるよう心掛けています。
さらに言うと、私立だと経営の視点を持たないといけません。企業でマーケティングを行っていた経験も活かせていると思います。学校を経営するという視点だけではなく、組織の中で自分の価値をどうつけていくかという視点でも、すごく役に立っていますね。

中学校・高等学校の教頭を務める前田紘平先生。グローバルな現場のリアルを生徒に伝える。

 

PART2 村田貴也先生
私立学校の教員は、企業の社員と同じ感覚も必要

――教師に至るまでのキャリアについて伺います。前職と、教師になった経緯を教えてください。

村田先生 設計事務所の仕事を経験してから教師になりました。設計事務所に勤めていた当時はバブルの時代です。主に地下鉄の駅の設計に携わり、世の中の景気の良さを感じながら仕事をしていました。しかし、いつまでもこの景気の良さは続かないだろうなと感じる瞬間もありました。
将来に少し不安を覚える中、たまたま東京都公立中学校の臨時講師依頼の電話がかかってきました。週に3日、午前中4時間の授業分の数学教師が足りないということでした。当時の上司に「将来的に教師の道も視野に入れている」ということを伝えたところ「将来設計として、そういう考えもいいよな」と思いもよらぬ言葉をかけられ正直驚きました。社会や業界に流れる風の変化を徐々に感じられるようになってきた頃でした。そして、週3日の午前中は非常勤講師として働き、午後は会社に行くという生活が始まったのです。

――教師として勤めはじめてみて、いかがでしたか。

村田先生 はじめてみたら、だんだん教師として働く日々が面白くなっていきました。元来人の前で話したり教えたりすることは嫌いではありません。黙って設計図を書いて計算機を叩くという生活より、こちらが面白いなと思うようになりました。生徒と接する楽しさというのは、教師だからこそ味わうことができる特別な楽しさだと思いますね。

――企業を経験してから、教育の世界に入って良かったと思うことはありますか?

村田先生 学校には公立と私立がありますが、特に私立では生徒募集を積極的に行い、務める学校が求める生徒を集めなくてはなりません。言い方は良くありませんが、私立は会社と同じで営業が重要です。生徒が集まることで、生徒や保護者が求める教育を提供することができ、結果を残すことで次の生徒募集に活かせます。このよ
うな好循環を作らなければ、我々は生活ができません。そのためには生徒や保護者に魅力ある学校でなくてはいけません。特に私が入職した時、本校は大きな転換期でした。当時から現在に至るまで、先生方の努力と研鑽の結果が、今の昌平中学・高等学校を作り上げたと思います。

生徒にこうしてあげたい、
ああしてあげたいという「情熱」が教師にとって大事な要素

――教師を目指そうかな、と悩んでいる人にアドバイスをいただきたいです。

村田先生 「人生やり直しはいくらでもできますよ」ということを伝えたいです。目標に向かって走っていて、それが実現できればいいのですが、できないこともあります。希望をもって就職してみても、面白くないと感じることもあるでしょう。そういうときは、是非、別の道に進んで欲しいです。
その新たな道の選択肢として教師を選ばれた場合は、今までの経験は決して無駄ではありません。今、他の仕事をしている方々は良い先生になりうると私は思っています。学校の先生は生徒たちにいろいろなことを伝えます。その中でも一番理想的な話は実体験を伴うエピソードです。また、学校以外の職種で培った感覚や思考の幅の広さです。経験はひとつの武器です。ぜひ、教師になって前職までの経験を活かして活躍して欲しいです。

――教師を目指すうえで、大事な要素はどういうものだと思いますか。

村田先生 学校の先生に必要なことは、生徒にこうしてあげたい、ああしてあげたいという「情熱」があるかだと私は思います。逆に言うと、情熱が無くなったときは辞めるときではないでしょうか。学校は生徒だけでなく教師も成長させる場所です。最初は未熟でも、経験を積んでいく中で、教師としての技術は成長させることができます。しかし、情熱は教員になってから備わるものではないと私は思います。生徒を成長させるために注ぐ情熱を持ち続けられる教師であって欲しいと思います。

中学校校長の村田貴也先生。企業人としてバブル期を走り抜いた経験を私学経営に活かす。

 

PART3 加藤慎也先生
教師か一般企業かギリギリまで悩み、旅行代理店で教育旅行業務に携わる道へ

――教師に至るまでのキャリアについて伺います。大学卒業後は、一般企業への就職一択だったのでしょうか。

加藤先生 一般企業と教職の世界、どちらも考えていました。教師になることは小学生のころからの夢だったので、大学では教職を選択していましたが、私の就職活動の時期はまさにバブルの絶頂期で、超売り手市場でした。そのため、教育実習と並行して就職活動も行い、何社もの企業から内定をいただきました。同時に県公立の教員採用試験にも受かり、決断を下すために最後の最後まで悩みました。10月末まで猶予があったので、その間に信頼できる先輩に相談をしました。その方に「教員になる方はどういう人が多いですか」という質問をしたところ、「教員ほど世間知らずの人はいない」と言われたのです。私はその言葉にショックを受け、「世間をよく知らないまま教員になってしまっていいのか。一般企業で社会人経験をした方がよいのかもしれない」と思い、一般企業への就職を決めました。

――企業ではどのような仕事に携わっていたのでしょうか。

加藤先生 大手旅行会社に就職し、教育旅行を担当する部署に配属されました。担当する学校に修学旅行などの企画書を持って営業に行き、採用された学校の添乗業務なども行いました。生徒や先生方とお話しをする機会もたくさんあり、改めて教員という職業の魅力を感じるようになっていきました。

――小さな頃からの夢でもある教師の道にキャリアチェンジしたきっかけを教えてください。

加藤先生 転機になったのは30歳のときです。当時結婚もしていましたが、添乗業務が続くと1か月のうちの25日は家にいないということもありました。そうした激務の中で次のキャリアを考えようかなと思っていたタイミングで、担当していた学校のアメリカ修学旅行に添乗しました。飛行機の移動で先生と隣り合って座っている時間が長かった時に、「自分は学生時代からこういう想いがあって…」といったことを世間話程度に話したのです。するとその後、その学校から「英語の教員を募集しているので本校に来ませんか」とお声をかけていただきました。話してみるものですね。そこから教師の道が開けました。

生徒を前向きに未来に導いてあげられるような人と一緒に働きたい

――旅行会社での経験はどのような形で活かされていますか?

加藤先生 旅行業はサービス業です。相手を喜ばせたいという想いが強くなってしまうのは、サービス業を経験したがゆえだと思います。特に、管理職になってからは、働き手である先生方の心理的安全性の確保は非常に重要だと考えるようになりました。勤めている中で、辛い思いをしたり悩みにぶつかったりすることもあると思います。傾聴する姿勢などを大事にして、明るく温かい雰囲気の職員室にしたいと常に思っています。とはいえ、先生方を尊重するためには、黙って見守ることが必要な場面もあります。先生に限らず、生徒はもちろんのことですが距離感というのは難しいとつくづく感じています。相手を喜ばせたいという思いが先走ってしまい、黙ってじっとしていられず、反省することも少なくありません。

――こういう先生と一緒に働きたい! という先生の想いをうかがいたいです。

加藤先生 わが校は「手をかけ 鍛えて 送り出す」という教育方針です。生徒の痛みや弱音を聞いた上で理解しつつも、生徒がどういう道に進みたいかにしっかりと耳を傾け、前向きに未来に導いてあげることができる人と仕事をしたいと思っています。生徒と伴走することができる人ですね。知識が豊富で教え方が上手なことは教師として当たり前のことです。その上で生徒と伴走できるような人こそ、「teacher」であり、「coach」であり、さらに「mentor」として、いろいろな役割を果たせると考えます。

高等学校校長の加藤慎也先生。添乗員として学校旅行に同行する中、教育現場への熱が高まり教師の道へ。

 

取材後記

商社・設計事務所・旅行代理店…。業種業界は三者三様ながらも、共通して社会人経験のバックグラウンドをお持ちの先生が管理職を務める学校は全国を見回しても相当に珍しいように思われる。お話を伺う中、各々が企業人としての生活で獲得した知見を学校現場で活かされており、それが間違いなく昌平中学・高等学校の躍進の一環であることが肌身で理解できた。
もちろん、一概に「社会人経験がある教師の方が偉い」という訳ではない。しかし、学校という組織文化以外の視点を有しているという点、そして何より子どもたちに血の通った経験談を語れるという点で、指導者として大きな強みの一つとなるだろう。かつて教員免許を取得しつつも、現在他の道で活躍されている「元・先生の卵」の皆さまにとり、キャリアを考える材料になれば幸いである。

(私学のお仕事ジャーナル編集部 渡邉)

 

#プロフィール
加藤慎也(かとう しんや) 昌平高等学校校長 英語科
昌平高等学校校長。英語科。旅行代理店から教員へ。添乗員として磨いたホスピタリティは、生徒第一の姿勢としてなおも健在。

村田貴也(むらた たかや) 昌平中学校長 数学科
昌平中学校長。数学科。設計事務所から教員へ。民間の企業人としての経験と感覚を活かし、昌平中高の変革期を支える。

前田紘平(まえだ こうへい) 中学校・高等学校教頭 社会科
中学校・高等学校教頭。社会科。商社から教員へ。グローバルな職場に身を置いた経験を武器に、国際バカロレア推進にも尽力。
#学校INFO
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