さっくりわかる教育トレンド「デザイン思考」
記事更新日 2024.07.12

さっくりわかる教育トレンド「デザイン思考」

「デザイン」という言葉の響きに、少なからず芸術的な要素を感じる方も多いのではないでしょうか。そして芸術と聞くと、どうしても先天的な才能やセンスといったものが想起されます。しかし、今回ご紹介する「デザイン思考」は一部の才ある方のみに可能なものではありません。詳しく見ていきましょう。

デザイン思考とは

「デザイン思考」とは、デザイナーがデザインを考える際に用いている思考プロセスを、幅広く再現できるようにスキルとして形式化したものです。実はデザインを考えるという行為は天才的な発想やひらめきといった要因のみから生まれている訳ではなく、一般化できる手順を踏んでいるということです。デザインを生み出す一連の論理的な思考こそが「デザイン思考」です。

 

デザイン思考のプロセス

では、早速ですがそのプロセスを追っていきましょう。代表的な型として、5つのステップで構成される型を紹介します。「1.観察・共感」「2.定義」「3.概念化」「4.試作」「5.テスト」の5つです。これまでマーケティングの世界では事前に大規模なアンケート等を行い、まずはマスを占める層の最大公約数的なニーズに応えるということが望ましいとされてきました。しかしながら、デザイン思考が辿るプロセスは異なります。

特徴的なのは、「何か課題を抱えている人」や「社会における特定の課題」といった規模感でフォーカスをするということです。それらについて、掘り下げたインタビューを実施したり、その人の行動を徹底的に観察したりして共感していくことにより、本質的な課題を洞察します。そして課題を「インサイト」として定義していきます。

そして、もうひとつの特徴が、ゴールを目指す過程にあります。これまでは、「いかに完璧なものを作り上げるか」ということに焦点が当たっていましたが、デザイン思考は異なります。当初から完璧を求めることなく、まず製品やアイデアを試作(プロトタイプ)します。そしてユーザーにテストをしてもらい、フィードバックを得て改善を加えます。この繰り返しにより精度を上げていくことで、ゴールを目指します。最初から完成度の高いものを目指すよりも、むしろ小さな改善のプロセスを細かく早く回していく方が早道であり、結果的にはより完璧に近いもの辿り着くという姿勢を取ります。

 

デザイン思考が取り入れられている背景

なぜ今「デザイン思考」が注目され、多くの企業で取り入れられているのでしょうか。また、なぜ大学でもデザイン思考を取り入れた授業や取り組みが活発化しているのでしょうか。
世のなかはますます複雑化し、私たちが直面する問題は実に多岐にわたります。社会の多様化は、そのままニーズの多様化を意味します。かつては『大きな物語』とも呼ばれる、大多数の人間に共通する価値観や人生の典型、そしてそれを反映したニーズがありました。しかし、世界は大きく変化しました。
もはや正解がないような問題、これまで遭遇したことがないような問題に直面することは珍しくありません。そしてそれらに対して、何とか解決を目指していかなければなりません。このような状況においては、いかに本質的な課題を拾い上げるかがより重要な意味を持つでしょう。多様化する社会で細分化された「本質的な課題」を拾い上げることは、単に多数派に目を向けていても実現しません。デザイン思考が求められている背景には「課題を抱える人」や「社会の課題そのもの」に徹底的に焦点を当ててインサイトを洞察していく、という考え方が時代にマッチしていることがあります。

 

デザイン思考と学校教育

自ら問いを立て、それを解決する力を養うのが探究学習の役割のひとつになります。そのため、今後いっそう探究する学びは学校現場においても重要になってきます。一方で、探究するテーマ設定やスケジュールはともかく、そのプロセスをどのように生徒に伝達するかという困難に直面することも教育現場の実際です。そのような状況では、「デザイン思考」が答えの一つになりえるでしょう。

「デザイン思考」という思考スキルを型として子どもたち教えていくということで、探究するスキルを獲得させることができます。探究学習の道標としての役割を果たすだけでなく、探究の質を上げていくためにも有効な手段なるでしょう。特にデザイン思考では、試作とテストを繰り返していくという発想が「当たり前」とされます。しばしば子どもたちは失敗を恐れ、決められた正解を求めがちです。しかし、デザイン思考のプロセスを習得していくことで、失敗は次の学びへの貴重な材料だ、と捉える習慣にもなります。従来の教育から今後求められるスキルとマインドへと転換を図っていく両面において、「デザイン思考」はひとつのキーワードとなるでしょう。

(作成:お仕事ジャーナル編集部W)

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