私学のユニーク先生インタビュー「淑徳中学高等学校 荻原 朱里先生」
今回は、淑徳中学高等学校の荻原 朱里先生に、現在のお仕事に至るまでのキャリア形成やお仕事のやりがい・面白さについて、お話を伺いました。
国際理解教育に熱心な淑徳で英語の非常勤講師を務める客室乗務員
――貴校の特徴や生徒さんたちについて教えてください。
荻原先生 淑徳は国際理解教育に力を入れており、私も留学コースの卒業生ですが、当時よりもさらに様々なコース設定があり、希望進路に合わせた選択ができます。また、淑徳アドバンスという学内予備校もあり、サポートも手厚いです。
また、中1から希望者は短期の語学研修に参加できる制度があり、中3では、1週間や3カ月など生徒の希望によって期間や国の選択ができる語学研修があります。英語のネイティブの先生も6人いて、中1から少人数制で生の英語に触れる機会がたくさんあっていいですよ。
生徒たちは元気で積極的な子が多く、私にも授業外でもどんどん声をかけてくれます。客室乗務員をしているというと、「きゃー、海外に行ってるの? 何カ国語話せるの?」と質問攻めに合うほどです(笑)。
――客室乗務員もされているということですが、どのような経緯で先生と兼業することになったのでしょうか。
荻原先生 英語の教師になりたいと大学進学時には思い、大学では英米文学科で学び、教職の資格も取っていました。教員試験も受かっていたのですが、後輩に誘われて航空会社の客室乗務員の試験を受けたところ合格し、「教師は後からでもできる」という母の助言もあって、航空会社に就職しました。
その後、結婚で退職し、1年間地方公務員として働いた後、第一子を出産後、再び客室乗務員として別の航空会社で働き始めました。
しかし、新型コロナウイルスのパンデミックによりフライトが減少し、本業に支障がない限り、社会人・組織人としての知見・能力の向上に資する兼業であれば許可されることになったので、ずっとやりたかった教師に挑戦する機会だと、飛び込みました。教員免許更新テスト(※現在は更新制度は解消)を受けながら、教職の求人サイトで非常勤の英語教員を探しました。働き方の柔軟性や月10日以内で勤務できることなどを考えて私学の求人に絞り始めたところ、母校である淑徳の名前を見て、応募しました。
実は、当時は第二子の育児休業中だったのですが、働き始めた当時は保育園も入れなかったので、一時保育やベビーシッターや親族の力を借りながら勤務していましたね。
先生と客室乗務員という二足のわらじの相乗効果
――今、学校ではどのようなお仕事を担当していますか。
荻原先生 2023年度は、主に中1と中2のInternational Perspective(IP)をネイティブの先生と一緒に担当しています。週4コマの英語の授業、週2コマの英文法の授業以外に、設置されている淑徳独自の科目です。国際教育を大事にしているので、英語が初めての異文化体験となる生徒もいる中学で、語学習得の意義を伝え、異文化間の相互理解を促す科目として、1クラスを3つに分けて少人数で教えます。
日本人にはあまり馴染みがないのですが、自分の“アイデンティティ”やSDGs、ESG投資などを考え、自分の言葉で発表し、相手に伝える能力を向上させるために、プレゼンテーションの機会も儲けています。
また、高校生のキャリア教育では、客室乗務員をしてきた経験からキャリアビジョンについて語ることもあります。大学受験に向けて勉強に励む時期ですが、勉強だけでなく視野を広げて、いろんなことに可能性が広がっていることを伝えるようにしています。
――客室乗務員の経験がどのように学校での仕事に生きていますか。
荻原先生 客室乗務員は、サービスや保安以外にも日本の作法やマナーなどを学んでいます。海外のお客様も多いことから、普段の生活では気づかないような“日本人の良さ”を日本人として伝えていくために、丁寧さ、心遣いなども日頃から気をつけて仕事をしています。
海外への便や前社ではファーストクラスも担当していたので、語学力はもちろんのこと、国際的なコミュニケーションは重要です。
それらの経験をふまえ、生徒には、日本人として英語で何を伝えていくのかという事に加えて、人としてのあり方なども授業を通して伝えています。
また、淑徳のネイティブの英語教員たちとさまざまなマテリアルを使いながらディスカッションできることは、客室乗務員としての語学力や時事情報などのアップデートにも役立っています。
複数の仕事、子育て、介護をこなすハードスケジュールも楽しんで
――両方の仕事をこなすには、どのようなスケジュールで働いているのですか。
荻原先生 これまでは月のフライトを10日、それ以外を先生として働いて週2日授業を教えていました。4月からはフライトを増やし、約月15日はフライト、週1日は授業の予定です。私はアジアなどの中距離線を担当しているので、実は昨夜ベトナムから戻り、今日は学校で授業を行いました。
フライトのスケジュールなどでどうしても授業のある日に重なるときには、他の先生に相談して交代していただくこともありますが、みなさんとコミュニケーションをとりながら乗り越えています。
――それだけのハードスケジュールをどのように乗り越えているのでしょうか。
荻原先生 こうした仕事に加えて、子どもが2人おり、父の介護もあるので、それぞれのバランスは難しいですが、異なる役割やテーマ、やるべきことがあるからこそ、それぞれが良い刺激になって前向きに向き合えるのだと思っています。1つだけになるとストレスを感じてしまうことも、複数に取り組んでいることで私にとってはちょうど良いです。
それに、どんどん周囲の助けを借りることも大事だと思っています。子育ても一人で抱えずに、夫や親族、保育園など様々なサポートを得ていますし、介護も支援を活用しています。授業でも、ネイティブの先生や他の先生方と相談することで、より良い授業が作れたり、私の学びにもなったりするので、積極的に周囲と協同し、サポートを得るようにしています。
常に学び続け、挑戦し続けたい
――とても前向きに新しいことに挑戦する荻原先生の転機は何だったのでしょうか。
荻原先生 実は、中学生で淑徳に入学したときには自分で言うのもなんですが、おとなしいタイプの生徒でした。高校の時にアメリカに1年強留学したときのホストファミリーがあまり世話を焼く人ではなかったので、自分でバスなどを調べて登校したり、料理を作ったりしなくてはいけませんでした。何かしたいときも「ちゃんと説明して」と英語が流暢でなくてもきちんと言葉にするように促されました。結果的に、そのおかげで留学生活のうちに自立的に動けるようになったと思います。色々してくれてきた親にも改めて感謝しました。
そして、社会人になってからも大学でキャリア教育を改めて受けて学び直し、自分らしさとは何か、どんなことがしたいのか再発見することもできました。ライフキャリア上でも、母の介護や妊娠をきっかけに、もっとちゃんと学びたいと思い、ホームヘルパーや保育士などの資格も取ってくるくらい、学びが好きです。
生徒たちにも「すべての科目について、学ぶことに無駄はない」と伝えています。
――今後、トライしてみたいことがあれば教えてください。
荻原先生 昨年、大学でキャリア教育を改めて受けたことで、改めてこれからを考える機会になりました。今後はキャリアカウンセラー資格を取得して、スクールキャリアカウンセラーとしても貢献したいと思っています。将来的には、生徒の人生の手助けのできる教師になりたいと思っていますし、改めて時代にあった教授法を学びたいので、教職の大学院にもいつか通いたいと思っています。