さっくりわかる教育トレンド「学校の心理的安全性」
本日は「心理的安全性」について解説していきます。前回の「人的資本経営」(リンク)と同じく、ビジネスシーンで語られることも多い概念です。改めて概要を確認した上で、それが学校においてどのように実践されるかをご紹介します。
「心理的安全性」とは
元々は心理学の用語であり、多少表現の違いはあるものの概ね「チームのメンバー全員がそのチームに対して、非難される不安を感じることなく率直に発言できる、本来の自分を安心してさらけ出せる、と感じられる状態」と定義づけられています。
例えば、学生時代に「クラスメイトの前で間違うことが恥ずかしく、積極的に発言できなかった」という経験を持つ人は少なくないように思われます。また、社会人になってからの経験として「上司の誤りに気付いたものの指摘すると機嫌を損ねる懸念から黙認してしまった」という過去をお持ちの方もいるかもしれません。
このように具体的な場面に引き付けて考えてみると、身近な概念であることが理解できます。
心理的安全性の重要性
では、なぜ現在、心理的安全性が重要と考えられているのでしょうか。
背景として、2016年にGoogleが「生産性が高いチームは心理的安全性が高い」と発表したことから特に注目を集めるようになりました。心理的安全性の高いチームのメンバーには、次のような点が認められるとされています。
- 離職率が低い
- 収益性が高い
- 他のメンバーが発案したアイデアを巧みに利用する
- マーネジャークラスから評価される機会が2倍多い
確かに心理的な安全が確信できる状況においては、誰しも伸び伸びとパフォーマンスを発揮できることは想像に難くありません。
では、学校での心理的安全性を考えてみたいと思います。学校は教職員にとっては「職場」という側面があり、生徒にとっては「学び舎」という側面があります。仮に前者におけるものを「職員室の心理的安全性」、後者を「教室の心理的安全性」と呼称し、それぞれの果たす役割や醸成のポイントについて考えてみましょう。
職員室の心理的安全性
生徒にとって心理的安全性が高い場所であるためには、まず教職員が範を示す必要があります。先生である大人がその確証を得ない場所において、子どもたちに心理的安全性を実感させることは難しいでしょう。そのため、まずは「職員室の心理的安全性」を高めることの重要性は容易に理解できます。
また、「職員室の心理的安全性」は実務的にも大きな価値を持ちます。学級運営・クラス運営は時に大きな困難にぶつかり、独力のみで解決が難しい状況も少なくありません。このような場面で真に優先されるべきは生徒たちの享受する教育的価値ですが、様々な要因によって解決が遅れてしまうことが少なくないのも実際です。もし、十分に心理的安全性が確保された環境であれば、円滑なコミュニケーションにより早期の事態健全化を期待できます。
「職員室の心理的安全性」を高めるヒントとなる一例が、主に企業で実施されている1on1ミーティングです。メンバーとマネージャーが対話する時間を設けることで、相互理解の促進を狙うものです。現在、キャリアサポートの一環として学校においても取り入れられつつあります。
教室の心理的安全性
最後に、最も重要な「教室の心理的安全性」を確保するための実践をご紹介します。
受容すること
まず、生徒に「自分と異なる考えを受け入れること」を促すことが重要です。ポイントは、「賛同」してもらう必要はない点にあります。「賛成・反対はさておき受容する」ということは、たとえ大人であっても容易ではないことです。しかし、多数派から否定される経験をした生徒が、徐々に自らの本心を隠すことは想像に難くありません。他者を受容する態度を導くことができるかは、教師としての力量が問われる重要な場面になります。
【取り組みの例】
〇相手の意見を否定せずきちんと受け止めるという話し合いのルールを作る。
〇ルールを守りながら、答えがない問いについて議論する。
寛容であること
またミス失敗に対して寛容であることも重要です。一方で寛容さは定量的な把握が難しく、「雰囲気」や「空気感」と表現される不文律や共通認識に依存せざるを得ないことも事実です。その実現には「失敗しても大丈夫だよ」「ミスすることは悪いことじゃないよ」というメッセージを根気強く発信することが求められます。子どもたちが互いの失敗に寛容であれば、自然と「教室の心理的安全性」は高まるでしょう。
【取り組みの例】
〇授業の前に、失敗やミスが成長につながることをクラス全体に確認する。
〇他の生徒のミスを嘲笑する態度に対しては、その場で注意する。
平等を促すこと
上記2つが実現されるには、教室運営における平等性にも意識を向ける必要があります。教室には多様な生徒がいるため、生徒が心理的安全性の確信を得ていない状況では、ミスの可能性が低い(いわゆる優秀な)生徒や、あるいは生得的に失敗に対して耐性がある生徒の発言頻度が高まります。自然のままに任せるのではなく、発言が偏らないように教職がコントロールすることが重要です。
【取り組みの例】
〇少人数に班分けして話し合わせる、順番に発言させる。
〇まずは全員に意見を考える時間を与え、ノートに書いてからそれを読み上げるように発表させる。
まとめ
心理的安全性の概要と重要性を確認し、学校の心理的安全性についてご説明しました。現在、個々の生徒の満足度が問われる私立学校を中心として、子どもたちが生き生きと過ごせる学校つくりのために教職員一丸となって取り組んでいます。