さっくりわかる教育トレンド「自己調整学習」
記事更新日 2024.05.25

さっくりわかる教育トレンド「自己調整学習」

今回は「自己調整学習」について解説します。昨今、学習の位置づけは知識の習得や思考力の研鑽だけでなく、「学び方そのものを学ぶ」ことに重点が置かれるようになっています。自己調整学習とは、まさに現代求められている学び方の一種です。

「自己調整学習」を行う学習者のイメージ

まずは自己調整学習を実現し、主体的に学ぶ学習者のイメージを確認しましょう。それは明確な目標と達成のための計画を立て、実行に移し、結果を踏まえて振り返り改善する、というサイクルを回し続ける学習者です。やや専門的な用語を用いれば、OECDのEducation2030で示されるラーニング・コンパスの概念の中に示されているAARサイクルとの実行者とも表現できます。いずれも現在の教育においては重要な概念ですので、「お仕事ジャーナル」でも追って詳細に紹介したいと思います。

 

「自己調整学習」が求められる背景

では、なぜ現代「自己調整学習」が重要なのでしょうか。社会の変化がかつてないほど大きく・速い現代の社会において、一意的な正解を求めることは困難です。誰もが常に学び続け、自身をアップデートしていくことが重要となります。自己調整学習は、自分自身の学習活動に能動的に関わり、自らの学習を調整するという学び方を指します。自分自身の立てた目標を達成するために、自分の学習に対する意欲や学習方法を自ら観察、調整し、効果的に学習を進めていく力は、今後の時代を生き抜く子どもたちに必要な不可欠な学習スタイルです。時代の要請に最も応えた学習スタイルが自己調整学習であると言えるでしょう。

 

「自己調整学習」に必要な3要素

「自己調整学習」の実現に際しては、「動機づけ・学習方略・メタ認知」の3つが必要な要素となります。それぞれについて見ていきましょう。

動機づけ

まずは「動機づけ」です。皆さんも、なぜ勉強するのかを自問自答したり、あるいは生徒や子どもに問われて答えに窮したりした経験をお持ちかもしれません。学習に向かっていく原動力である動機づけには、当然ながら重要な意味があります。動機づけの理論も多種多様に存在しますが、今回は最もポピュラーな深い動機づけの種類として「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」を挙げたいと思います。外発的動機づけは、褒められることや、逆に叱られずに済むことが根源になります。外発的動機づけはある意味価値判断を他者に依存しているということもあり、ネガティブなイメージがあるかもしれません。しかし、最も避けるべきはそもそも動機づけが存在しない「無動機づけ」です。たとえ外発的でもまずは動機づけになる要因を用意・あるいは見出し、その上でいかに主体的に学びに繋がる望ましい状態に持っていくか、ということがポイントになります。

学習方略

「間違えた漢字は10回ノートに書いて提出しなさい」。この類の宿題を小学校などで経験した方も少なくないことでしょう。学習方略とは簡単に言えば学習方法であり、上記の課題は「反復方略」に分類されます。学習方略の詳細についてはまた別の機会に紹介したいと思いますが、本稿の中心である「自己調整学習」で最も重要なポイントは、それぞれの生徒に適する学習方略は異なるということです。そして、学習者自身が自分に適した学習方略を構築することです。「どのように覚えるか」「どのように理解するか」「どのように気持ちを学習に向けるか」といった学習に際して頻出する問いには、いずれも一般的な方略が既に存在しています。指導者が学習方略を示すことは必要なことでありますが、重要なのは、その中から選び、自分のものとして活用していくのは生徒たち自身である、ということです。

メタ認知

メタ=高次を意味します。よって、メタ認知とは高い次元からの認知という意味になります。即ち、「学習する自分自身」に対して、一段階高い次元に立って客観的な自己認識を持つことを意味します。メタ認知は、大きく2つの段階に分けることができます。自分自身を客観的に観察する「モニタリング」の段階と、そのうえで自分自身の学習行動を改善する「コントロール」の段階です。正しく自己認識を持つためには、人のメタ認知に関するメタ認知的知識を持つことが必要になります。その上で、いまの自分がどのような状態なのかを理解するということが「自己調整学習」では重要となります。

以上の3要素を適切に用いて自らの学習に能動的に関わっていく姿が主体的な学びであり、自己調整学習で目指している方向性ということになります。一方で、どの要素から優先的にアプローチするべきなのかということについては、必ずしも一通りではありません。学校において実現する場合でも、校風・カルチャー・価値観、生徒たちの状況や特性によって、個別具体的なアプローチを丁寧に作り上げることになります。

 

まとめ

「自己調整学習」に必要な3要素も複雑に絡み合っているものであり、互いに影響を及ぼしています。実践としては概要を理解し、取り組むべき点を決めて実践を進めていきながら、各要素の関係性を分析し、改善を続けていくというサイクルを回していきます。結果として、各教育活動の精度も全体的に向上していくことになるでしょう。
この理論を実際に活用している教育現場も増加しています。繰り返しになりますが、3つの要素のどこを切り口にするか、という部分における正解はありません。読者の皆さん自身が関わる教育現場の課題に即し、試行錯誤しながら取り組んでいくことになります。一方で、取り組むべき枠組みが示されていることでそれぞれの学校、生徒の状況を検証的にふり返り、どこからアプローチしていくか、ということを整理して検討することが可能になります。有効な枠組みのひとつが、自己調整学習理論です。

(作成:お仕事ジャーナル編集部W)

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