さっくりわかる教育トレンド 「人的資本経営」という考え方
「人的資本経営」という言葉自体は、しばしばビジネスシーンでも言及される概念であり、聞き覚えのある方も少なくないことと思います。学校・企業を問わず組織の経営を支える考え方の一種です。今一度、基本から確認しましょう。
人的資本経営とは
これまで、経営の文脈において人員は「経営資源」の一つでした。ヒト・モノ・カネ・情報をまとめて「四大資源」とする考え方は広く知られています。では、ヒトを資源とする場合と資本とする場合とでは、一体何が異なるのでしょうか。
人的資源
目標を達成するために効率的に使うもの⇒消費の対象
人的資本
長期的に価値を増大させることが可能なもの⇒投資の対象
モノ・カネ・情報を扱うはヒトですので、経営資源の中でも最も重要な位置づけであったことは間違いありません。しかしあくまで、「いかに効率的に消費(活用)するか」が主眼に置かれていました。このようにヒトを資源と解釈する限りにおいて、発生する費用はコストであり、パフォーマンスに対して最小であることが理想とされます。
しかし現代では、発想を転換してヒトを資本と捉え、積極的に投資を行う必要性が指摘されています。これが「人的資本」の考え方です。
人的資本経営の背景
では、なぜ今、人的資本という考え方が注目されているのでしょうか。この背景には複数の理由があります。
無形資産価値の向上
技術革新は有史以来経験したことがない速度で進行し、今後多くの仕事がテクノロジーによって代替される可能性が示唆されています。将来的にほとんどの定型業務は自動化されるだろう、と指摘する専門家もいます。このような環境下においては、ヒトの価値は豊かな発想力や対人折衝力といった固有の能力(無形資産)に求められます。
人材の多様化
少子高齢化により労働人口は減少の一途を辿っています。必然的に、あらゆる組織は多様な人材を受け入れていくことが不可欠です。組織は個人の集合であり、その価値もまた個々人の価値に支えられています。多様な人材の集団であっても全体としての方向性を失わず一人ひとりがパフォーマンスを高めることで、集団として高い価値を発揮できます。そのため、ヒトへ投資を行う必要性はますます増しています。
上記以外にも様々な要因から人的資本という概念が注目を集めています。いずれにせよ、時代の要請から発生した必然とも考えることができます。
学校の人的資本経営
ここまで、人的資本経営の考え方と背景を確認しました。では、学校においてどのような点に変化をもたらしているでしょうか。
指導力向上への投資
学校の価値にはもちろん議論の余地がありますが、その一つとして教員の「指導力」を置くことに疑問の余地は少ないと思います。ともすれば教員は個人商店化しやすく、かつては各々の授業を聖域としてしまう傾向さえありました。しかし、現代では指導力向上のため研鑽に励み、教職員同士でも活発なフィードバックを行う必要があります。現在多くの学校で、指導力向上のための仕組みや文化の醸成に力を入れています。
人材獲得への投資
かつて学校は求人を掲示するだけで十分な応募があり、採用活動や労働環境・人事制度の整備には消極的でした。しかし、長年の経済的停滞も手伝い求職者の目もシビアになっています。今は同じ学校同士だけでなく、一般企業とも人材の獲得競争を行わなければなりません。仕事の魅力だけでなく、労働環境としても希少な人材からの要望に応えることが学校にも求められています。
まとめ
本稿では、人的資本経営についてご紹介しました。学校=ハードワークというイメージはまだまだ根深いのも実際ですが、教職員の能力や働きやすさ・働きがいを高めるための投資を積極的な学校も数多くあります。先入観にとらわれず、広く情報収集を行うと意外な発見があるかもしれません。